はじめに
赤ちゃんを抱っこしているとき、ふと気になる「頭の形」。特に後頭部が平らだったり、左右が非対称だったりすると、「このままで大丈夫かな?」と心配になる親御さんも多いのではないでしょうか。
実は、赤ちゃんの頭の形が気になる症状には「位置性頭蓋変形症(Positional Skull Deformities)」という名称があります。この問題は、1990年代にSIDS(乳幼児突然死症候群)予防のために「仰向け寝(Back to Sleep)」キャンペーンが始まって以降、世界中で注目されるようになりました。仰向け寝が推奨されることで、頭に特定の圧力がかかりやすくなり、頭の形が変化することが指摘されています。
本記事では、2016年に発行された「位置性頭蓋変形症についてのガイドライン」をもとに、治療や予防策、特にヘルメット療法のエビデンスを詳しく解説します。
2. 位置性頭蓋変形症とは?
2-1. 背景と歴史
1992年、米国小児科学会はSIDS(乳幼児突然死症候群)の予防のために「Back to Sleep(仰向け寝)」キャンペーンを開始しました。この取り組みにより、SIDSを含む睡眠関連の乳児死亡が大幅に減少しました。しかし、仰向け寝が主流となると、生後数週間の赤ちゃんに後頭部の平坦化が見られる事例が増えました。
日本でも、1995年にSIDS研究会が設立され、仰向け寝の推奨が始まりました。同時に、位置性頭蓋変形症の認識も進化していきました。
2-2. 頭蓋骨の仕組みと成長の重要性
赤ちゃんの頭蓋骨は、泉門(やわらかい部分)と縫合線(骨の接合部)によって構成されます。この仕組みは、出生時の頭の変形に対応しつつ、生後2年間で脳の成長を支える役割を果たします。
特に脳の成長は生後6か月でほぼ2倍になり、頭蓋骨はその形状を柔軟に変化させる必要があります。この時期に外的な圧力が加わると、位置性頭蓋変形症が発生することがあります。
2-3. 発達遅延リスクとその議論
位置性頭蓋変形症は、運動発達遅延や神経発達への影響が議論されています。ただし、多くの研究において、因果関係の明確な証拠は不足しています。そのため、さらなる研究が必要とされています。
3. 位置性頭蓋変形症の種類と原因
3-1. 主な種類
位置性頭蓋変形症には、主に以下の2種類があります。
- 変形性斜頭症(DP): 後頭部が片側のみ平坦化する。
- 変形性短頭症(DB): 後頭部が全体的に平坦化する。
3-2. 原因とリスク要因
- 仰向け寝: 片側または後頭部への圧力が継続的に加わる。
- 斜頸: 首の筋肉の緊張が原因で、頭が片側に傾く。
- 分娩の影響: 初産婦や吸引分娩などで発生しやすい。
4. 診断:エビデンスに基づく方法
4-1. 診断の流れ
位置性頭蓋変形症の診断は、臨床検査を基に行います。3次元画像や立体写真測量が必要な場合もありますが、CTスキャンやX線は特殊なケースに限定されます(エビデンスレベルIII)。
4-2. 頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別
頭蓋骨縫合早期癒合症は、頭蓋骨の縫合が早期に閉鎖してしまう疾患です。この疾患との鑑別が重要です。
5. 治療と予防:エビデンスベースのガイドライン
5-1. 軽度の位置性頭蓋変形症の対応
- 体位変換療法(エビデンスレベルI): 赤ちゃんの頭を左右に動かし、圧力を分散します。ただし、理学療法(受動的ストレッチングなど)の方が有効な場合があります。
5-2. 中等度~重度の位置性頭蓋変形症への対応
- ヘルメット療法(エビデンスレベルII): 保存的治療(体位変換+理学療法)で効果が得られない場合に適用されます。適切な開始時期は生後4~6か月で、1日23時間の着用が推奨されます。
7. 日本での実際の治療法と選択肢
7-1. 国内で利用可能なヘルメット療法
日本では、以下のヘルメットが利用可能です。
- アイメット: 低反発クッションを採用し、赤ちゃんの負担を軽減。
- スターバンド: アメリカ発のヘルメットで、デザインが豊富。
- ベビーバンド: 通院が月1回程度と手軽。
まとめ
- 早期診断と治療が、頭の形の改善と赤ちゃんの成長をサポートします。
- 信頼できるエビデンスを基に、治療方針を選択することが大切です。
参考文献
- Congress of Neurological Surgeons Systematic Review and Evidence-Based Guidelines for the Management of Patients With Positional Plagiocephaly
- Uptodate. Overview of craniosynostosis
- Positional Skull Deformities Etiology, Prevention, Diagnosis, and Treatment
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