前立腺がん検診に関する欧州無作為化試験(ERSPC)の16年追跡
A 16-yr Follow-up of the European Randomized study of Screening for Prostate Cancer
Hugosson J, Roobol MJ, Månsson M, et al. — European Urology, 2019
PSA検診の効果を検証した世界最大の無作為化試験ERSPCの16年追跡。前立腺がん死亡を約20%減らすが、全死亡は変えず過剰診断を伴うことを示した
主要な知見
PSA検診群は非検診群と比べて前立腺がん死亡リスクが20%低下(率比RR 0.80、95%信頼区間0.72〜0.89、p<0.001)。ただし全死亡率の差はなく、1人の前立腺がん死を防ぐために約570人を検診し18人を余分にがんと診断(過剰診断)する必要があった(NNI 570、NND 18)。
研究結果の概要

エビデンスの限界
ヨーロッパ男性が対象で、前立腺がんの罹患・死亡が欧米より低い日本人にそのまま当てはまるかは不確実。前立腺がん死は20%減るが「寿命そのもの(全死亡)」は延びておらず、過剰診断・過剰治療というハームと必ず天秤にかける必要がある点が最大の限界。
読者の方へ
まず上のグラフの見方からお話しします。これはPSA検診を受けるグループと受けないグループに、くじ引きのように公平に分けて16年間追いかけ、前立腺がんで亡くなるリスクがどれだけ変わったかを示したものです。棒が低いほどリスクが下がったことを意味します。 この研究は前立腺がん検診の「決定版」と呼ばれるもので、ヨーロッパ7カ国・約16万人という途方もない規模で行われました。これだけ大きな研究は他になく、PSA検診を語るときに必ず土台として引用されます。 結果を数字で言うと、検診を受けたグループは前立腺がんで亡くなるリスクが20%低くなりました(率比0.80)。グラフの横棒は「信頼区間」といって、本当の効果がこの幅のどこかにあるという目安です。今回は0.72〜0.89と全部が1.0より下に収まっているので、偶然ではなく確かに死亡が減ったと読み取れます。 ただ、ここがいちばん大切です。前立腺がんによる死亡は減りましたが、あらゆる死因を合わせた「全体の寿命」は延びませんでした。さらに、1人の前立腺がん死を防ぐには約570人が検診を受け、18人が「放っておいても命に関わらなかったかもしれないがん」と診断される計算でした。これが過剰診断という、検診のもう一つの顔です。 あなたの場合は、こう考えてみてください。55〜69歳で前立腺がんによる死を少しでも避けたいと強く願うなら、PSA検診は理にかなった選択肢です。逆に「がんと言われたら治療せず様子を見るのは耐えられない」というタイプなら、過剰診断が不要な手術や副作用につながりやすいことも知っておいてください。 限界と次の一歩です。この研究はヨーロッパ人が対象で、前立腺がんが比較的少ない日本人にそのまま当てはまるとは限りません。迷うときは「20%の死亡リスク減を取るか、過剰診断を避けるか」を主治医に率直に伝えて一緒に決めましょう。今日すぐ結論を出す必要はありません。
