「Ozempicで15kg痩せました」——SNSやメディアでこうした体験談を目にすることが増えました。
一方で、同じ薬を同じ期間使っても「ほとんど体重が変わらなかった」という声もあります。外来でGLP-1薬を処方していると、この個人差は日常的に感じることです。なぜ同じ薬で、これほどまでに結果が異なるのか。2026年4月、Natureに掲載された大規模遺伝子研究が、その謎の一端を解き明かしました。
いま何が起きているのか
GLP-1受容体作動薬(セマグルチド=商品名オゼンピック/ウゴービ)は、2型糖尿病と肥満症の治療薬として世界的に処方が急増しています。日本では2020年にオゼンピック(糖尿病用)が承認され、2023年にウゴービ(肥満症用、セマグルチド2.4mg)が承認、2024年3月から処方が開始されました。
臨床試験のデータは確かに印象的です。STEP 1試験(N=1,961)では、セマグルチド2.4mg群の平均体重減少率は-14.9%でした [1]。86.4%が5%以上、50.5%が15%以上の減量を達成しています。

しかし、ここで注目すべきは「裏側の数字」です。13.6%の参加者は5%以上の減量すら達成できませんでした。平均-14.9%という数字の陰に、20%以上減った人もいれば、ほとんど変わらなかった人もいる。この個人差のメカニズムは、長らく不明でした。
エビデンスではどこまでわかっているか
遺伝子が薬の効き方を左右する
2026年4月、23andMe Research Instituteの研究チームが、27,885人のGLP-1薬使用者を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果をNatureに発表しました [2]。
この研究で見つかったのは、GLP1R遺伝子(GLP-1受容体をコードする遺伝子)のミスセンス変異です。この変異の「効果アレル」を1コピー持つごとに、追加で-0.76kgの体重減少が期待される(P=2.9×10⁻⁸)。つまり、薬が結合する受容体そのものの構造が、わずかに異なる人がいるということです。

興味深いのは、この効果アレルの頻度が人種によって大きく異なる点です。ヨーロッパ系では約40%が持っていますが、アフリカ系ではわずか7%。同じ薬でも、集団レベルで効果の出方が異なる可能性を示唆しています。
さらに、GLP1RとGIPRの遺伝子変異は、嘔気・嘔吐といった副作用のリスクにも関連していました。特にGIPRの変異は、チルゼパチド(マンジャロ)使用者に限定的に見られ、薬剤ごとに副作用プロファイルが遺伝的に異なることを示唆しています。
2023年の先行研究が示したもう1つの鍵
実はSu et al.の研究に先立つ2023年、Dawed et al.がLancet Diabetes & Endocrinologyに発表した薬理ゲノミクス研究で、2つの重要な遺伝子変異が特定されていました [3]。
1つ目はGLP1R rs6923761(Gly168Ser変異)。このセリン型アレルを持つ人は、グリシン型の人に比べてGLP-1薬によるHbA1c低下がアレルあたり0.08%小さくなります。
2つ目はARRB1 rs140226575(Thr370Met変異)。β-アレスチン1という細胞内シグナル伝達分子をコードする遺伝子で、メチオニン型を持つ人はアレルあたり0.25%のHbA1c追加低下が見られました。

注目すべきは、この2つの遺伝子を組み合わせた場合です。最も効果が出やすい4%の集団は、最も効果が出にくい9%の集団に比べて、30%大きなHbA1c低下を示しました。個々の遺伝子の効果は小さくても、組み合わせによって意味のある差が生まれることを示す結果です。
遺伝子だけではない——体質と腸内細菌
イタリアの研究チーム(Vozza et al.)は、GLP-1薬を新規開始した194人の2型糖尿病患者を52週間追跡し、「効く人」と「効きにくい人」の特徴を詳細に調べました [4]。

6ヶ月時点でレスポンダー(5%以上減量)だったのは58%。しかし12ヶ月時点では49%に減少しました。レスポンダーの特徴は以下の通りです:
- ベースラインのBMIが高い(脂肪組織が多いほど薬への反応が大きい)
- 脂肪肝の指標が高い(インスリン抵抗性が強い状態ほど改善余地が大きい)
- 女性(ホルモンの影響が示唆される)
- 若年(代謝の柔軟性が保たれている)
- 糖尿病の罹病期間が短い
- メトホルミン未使用で開始(GLP-1薬との同時開始で相乗効果)
特に重要な知見は「6ヶ月時点の早期反応が、12ヶ月時点の成功を強く予測する」ことです。つまり、半年で効果が出ていれば続ける価値があり、出ていなければ治療戦略の見直しが必要ということです。
さらに、腸内細菌叢もGLP-1薬の効き方に関わっている可能性が浮上しています [5]。腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸や胆汁酸誘導体がGLP-1分泌を調節し、GLP-1薬自体も腸内細菌の構成を変化させるという双方向の関係が報告されています。腸内細菌の「個人差」が、薬の効き方の「個人差」に反映されている可能性があります。