はじめに
「最近、急に肌が乾燥するようになった」「シワが一気に増えた気がする」——更年期を迎えた女性の外来で、こうした訴えは決して珍しくありません。
実はこの変化、「年だから仕方ない」では片付けられない、はっきりとした生物学的メカニズムがあります。そして最近、ただ「シワを埋める」のではなく、「コラーゲンを再び作る力」に着目した注射療法の臨床研究が相次いで報告されています。
今回は、この分野の最新エビデンスを一緒に読み解いていきましょう。
閉経後の肌に何が起きているのか
エストロゲンは肌のコラーゲン産生、水分保持、弾力性を維持する上で中心的な役割を担っています。閉経によりエストロゲンが急激に低下すると、以下のような変化が連鎖的に生じます。
- コラーゲン量: 閉経後最初の5年間で約30%減少する
- 皮膚の厚み: 年間約1.13%ずつ菲薄化が進む
- 水分保持能: 表皮バリア機能の低下により乾燥が進行する

2025年に Journal of Cosmetic Dermatology に掲載されたナラティブレビュー(Viscomi B, et al.)では、閉経後のエストロゲン欠乏が皮膚の構造的・機能的変化を引き起こし、コラーゲン合成の低下、弾力性の喪失、乾燥を招くことが体系的にまとめられています[1]。
同レビューでは、ホルモン補充療法(HRT)が皮膚の質改善に効果がある可能性が示される一方で、皮膚だけを目的としたHRTの使用を支持するロバストな臨床試験は不足していること、そして美容的治療の研究においても閉経状態やHRT使用の有無を考慮した解析がほとんど行われていないことが指摘されています[1]。
日本では更年期女性の約79%がHRTを「怖い」「避けたい」と感じているという調査もあり、肌の悩みに対する新しいアプローチへのニーズは高いと考えられます。
「埋める」から「作る」へ——コラーゲンバイオスティミュレーターの科学
ヒアルロン酸(HA)フィラーは、注入部位のボリュームを物理的に補填する即効性のある治療として広く知られています。一方、ポリ-L-乳酸(PLLA)は「コラーゲンバイオスティミュレーター」と呼ばれ、注入後に線維芽細胞を刺激して体内でのコラーゲン産生を促進するアプローチです。
PLLAの効果はどれくらい確かか?
2025年のAesthetic Plastic Surgery誌に掲載されたシステマティックレビュー(Ferreira ACM, et al.、PRISMA 2020準拠、14研究を対象)では、PLLAは皮膚の弾力性改善、シワ軽減、顔面ボリュームの増加を有意に示し、効果は最大25ヶ月間持続したと報告されています。副作用の大半は注入部位の軽度な疼痛・腫脹で、重篤な有害事象はまれでした[2]。
さらに2026年にJournal of Cosmetic Dermatologyに掲載された多施設前向き研究(Urdiales-Gálvez F, et al.、スペイン3施設、女性36名)では、PLLAの効果を血清バイオマーカーで客観的に検証しています。PLLA注入後、血清P1CP(I型プロコラーゲンC末端プロペプチド——コラーゲンが新しく合成される際に血中に放出されるマーカー)がベースラインの134.6 ± 98.9 ng/mLから2ヶ月後に233.2 ± 163.1 ng/mLへと有意に上昇しました(p < 0.001)。この上昇は6ヶ月後も維持されていました(p = 0.012 vs ベースライン)[3]。

シワの重症度スケール(WSRS)では、6ヶ月後の改善率が71.9%に達し(Cochranの Q検定、p = 0.005)、超音波検査ではコラーゲン新生を示す組織密度の増加と粘弾性の改善が確認されました[3]。
つまり、「体が実際にコラーゲンを新しく作っている」ことを、血液検査と画像検査の両方で裏付けたデータです。
PLLA+HA併用——二つのメカニズムを組み合わせる
2026年4月、Aesthetic Surgery Journalに掲載された多施設オープンラベル試験(Lorenc ZP, et al.、41名)では、PLLAとHAフィラーの併用レジメンが検討されました。この研究の対象はGLP-1受容体作動薬による体重減少で顔のボリューム低下を経験した患者でしたが、PLLAによるコラーゲン刺激+HAによるボリューム補填という二重のメカニズムは、閉経後のコラーゲン減少に対しても応用可能な戦略です[4]。
PLLAで2-3回、HAで1-2回の治療セッションを組み合わせた結果、バイオ計測による客観的評価で皮膚の水分量と輝度(ラディアンス)が改善し、頬・あご・口周りの輪郭が改善しました。治療関連の有害事象は報告されず、患者満足度は高く、最終PLLA治療から9ヶ月後の追跡でも効果が持続していました[4]。
HAで「今日の乾燥」を即座に改善しつつ、PLLAで「明日からのコラーゲン再生」を促すという、即時効果と長期再生を両立するアプローチと言えます。
日本で受けるには——知っておくべきこと
PLLA注入もHA注入も、美容目的の場合は保険適用外(自費診療)です。
費用の目安として、PLLAは1回あたり約8〜15万円で通常2〜3回の施術が推奨されます。HAフィラーは部位・使用量により1回あたり約5〜10万円です。併用する場合は総額30〜50万円程度が目安です。
美容皮膚科・美容外科で施術を受けることができます。PLLAは注入技術に習熟した医師による施術が重要であるため、日本美容外科学会(JSAPS)や日本美容皮膚科学会の専門医がいるクリニックを選ぶことをおすすめします。
主治医やかかりつけの皮膚科医への相談では、「コラーゲンバイオスティミュレーターに興味があるのですが、私の場合は適応がありますか?」と聞くのが話が早いです。その際、HRTの使用状況や既往歴も伝えてください。
医師の本音
正直に言うと、この分野のエビデンスはまだ発展途上です。今回紹介した研究はサンプルサイズが36〜41名と小規模で、ランダム化比較試験ではなくオープンラベルのデザインです。プラセボ効果や評価者バイアスを完全には排除できていません。
ただし、「閉経後のコラーゲン減少には明確な生物学的メカニズムがある」こと、そして「PLLAがコラーゲン新生を血清マーカーレベルで促進する」ことについては、複数の独立した研究で一貫した結果が出ています。
30〜50万円という費用を考えると、まずは基本的なスキンケア(保湿・日焼け止め)の徹底、そしてHRTの適応があるかどうかの確認が先決です。注射療法は「基本を押さえた上でさらに改善したい」場合の選択肢として位置づけるのが妥当でしょう。
「年だから仕方ない」で片付けるのではなく、科学的な選択肢として知っておく——それだけでも、ご自身の肌との付き合い方が少し変わるかもしれません。
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