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筋肉のために性機能を犠牲にしていませんか?——アナボリックステロイドの代償を科学する

2026-05-1014

「ジムで一緒になる先輩に勧められて、半年前からステロイドを始めたんです。体は、たしかに変わりました。でも最近、性欲がまったくわかなくて——こんなこと、誰にも言えなくて」

外来で、こう打ち明けられることが少しずつ増えています。声をひそめて、半ば恥じるように。アナボリックステロイド(AAS)は、もうトップアスリートやボディビルダーだけのものではありません。SNSには「増量サイクル」「除脂肪」の情報があふれ、理想の体を最短で手に入れる手段として、ジムに通うごく普通の男性にまで静かに広がっています。

そして、その代償の話になると、とたんに口が重くなる。筋肉の話は仲間と盛り上がれても、性機能や妊娠の悩みは、外来でさえ切り出しにくい。今日はこの、メンズヘルスのいちばん奥まった場所にある問題を、一本のレビュー論文を手がかりに、一緒に整理してみたいと思います。「筋肉のために、いったい何を差し出しているのか」を。

「筋肉か、性機能か」——それは本当に選べる取引なのか

まず、これは特別な誰かの話ではない、というところから始めさせてください。

Sagoeらが2014年に発表した、187の研究を統合したメタ分析があります [4]。それによると、AASを生涯に一度でも使ったことがある人の割合は、世界全体で3.3%、男性に限ると6.4%と推定されています。およそ16人に1人の男性、という数字です。しかもその多くは、競技に出るエリート選手ではなく、「見た目をよくしたい」という理由でトレーニングをしている、ふつうの人たちでした。

レビュー論文 [1] が引用するAnabolic 500という調査(使用者506名)を見ると、その顔ぶれがもっと具体的に見えてきます。平均年齢は29歳。入手経路の52.7%はインターネットで、医師の処方で使っていた人はわずか6.6%。そして、これまでに医療機関で相談したことがある人は、全体の約30%にとどまります。裏を返せば、7割の使用者は、誰にも相談しないまま使い続けているということです。

この「相談できなさ」こそが、今日の裏テーマです。体を大きくしたい気持ちそのものは、悪いものではありません。問題は、その先で何が起きるかを正確に知る機会がないまま、独学と仲間内の噂だけで進んでしまうことにあります。そして気づいたときには、筋肉と引き換えに、思っていたよりずっと大きなものを手放していた——そういう相談が、静かに増えているのです。

この一本の論文が、なぜ「性医学の視点」からまとめられたのか

手がかりにするのは、2026年にInternational Journal of Impotence Research誌に載ったレビュー論文です [1]。

原題は "Health consequences of anabolic steroids: a sexual-medicine perspective"、日本語にすると「アナボリックステロイドの健康影響——性医学の視点から」。著者はカタールのHamad Medical CorporationとWeill Cornell Medicine-QatarのMajzoubとCanguven。形式はナラティブレビュー、つまり複数の研究を専門家が読み込んで整理した総説です。

ここで一つ、読み方のこつを添えておきます。ナラティブレビューは、著者自身が新しい実験をした「一次研究」ではありません。既存の研究を俯瞰して描いた地図のようなものです。だから全体像をつかむのに便利な一方で、どの研究を選んで載せるかに著者の視点が入ります。読むときは「この主張の元になった研究は、どれくらい確かなのか」を一つずつ確かめる姿勢が要る——今日はその作業を、いくつかの大事な数字について、一緒にやっていきます。

この論文がユニークなのは、心臓や肝臓といった「命に直結する臓器」の話に偏りがちなこの分野で、あえて性機能・生殖という切り口を正面に据えたことです。実際、使用者が最初に病院を訪れるきっかけは、性欲の低下やED、あるいは「子どもができない」という相談であることが多い。全身が派手に壊れる前の、静かなサインなのです。

アナボリックステロイドの種類と副作用プロファイル

アロマ化可能型/非アロマ化型/17α-アルキル化型の比較

そして、その入口でまず知っておきたいのが、「AASと一口に言っても、種類でリスクがまるで違う」という事実です [1]。アロマ化可能型(テストステロンやメタンジエノンなど)は体内でエストロゲンに変換されるため、女性化乳房やむくみが起きやすい。非アロマ化型(スタノゾロールやトレンボロンなど)はその心配が少ない代わりに、脂質異常や心血管への負担が増します。とりわけ経口で使える17α-アルキル化型(メチルテストステロンなど)は、肝臓での分解を逃れる化学構造ゆえに、肝障害のリスクが最も高いグループです。使用者はこれらを何種類も同時に使い(スタック)、使用と休薬を繰り返す(サイクル)ことが多く、リスクはさらに読みにくくなります。

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引用エビデンス
1

1. Majzoub A, Canguven O. Health consequences of anabolic steroids: a sexual-medicine perspective. Int J Impot Res. 2026. https://doi.org/10.1038/s41443-026-01272-1

2

2. Windfeld-Mathiasen J, et al. Cardiovascular Disease in Anabolic Androgenic Steroid Users. Circulation. 2025;151(12):828-834. https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.124.071117

3

3. Ledesma BR, et al. Fertility outcomes in men with prior history of anabolic steroid use. Fertil Steril. 2023;120(6):1203-1209. https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2023.09.016

4

4. Sagoe D, et al. The global epidemiology of anabolic-androgenic steroid use: a meta-analysis and meta-regression analysis. Ann Epidemiol. 2014;24(5):383-98. https://doi.org/10.1016/j.annepidem.2014.01.009

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