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こどもの悩みpaper-review

ADHDの子に運動は効くのか?——36研究が示した「効く部分」と「効かない部分」

2026-05-0715

「うちの子、ADHDと言われました。薬以外に、家でできることはありませんか」

外来でこの質問を受けると、私は少し姿勢を正します。短い一文の奥に、たくさんの迷いが畳み込まれているからです。診断を受け止めるまでの時間、薬を飲ませることへのためらい、そして「自分の育て方が悪かったのだろうか」という、たいてい口には出されない問い。スマホを開けば「運動でADHDが治った」「食事を変えたら別人みたいに落ち着いた」——藁にもすがる言葉が、次から次へと流れてきます。

発達障害という言葉は、この10年でずいぶん身近になりました。それ自体は歓迎すべきことです。けれど関心が広がるほど、玉石混交の情報も一緒にふくらみ、当事者や保護者はかえって迷子になりやすい。「結局、何を信じればいいのか」——そのしんどさを、私は診察室で何度も見てきました。

だから今日は、保護者から最もよく聞かれるテーマ「運動」を、できるだけ誠実に掘り下げます。運動でADHDは治るのか。治らないとして、では何に効いて、何に効かないのか。2025年にJournal of Attention Disorders誌へ掲載された、36の研究をまとめた大きな分析が、この問いにかなり具体的な答えを出してくれました[1]。「効く」でも「効かない」でもない、その中間にある本当のところを、一緒に読み解いていきます。

「運動すればADHDは治る」——その言葉に、私が身構えるわけ

まず、いちばん大事な前提から。運動は、ADHDを「治す」治療ではありません。ここを飛ばして「効く/効かない」の話に進むと、必ずどこかで期待と現実がすれ違います。

その上で、では運動はADHDの「何に」働きかけるのか。これを一つひとつ切り分けて調べたのが、今回の論文です。

論文の骨格を、先に共有しておきます。

原題は "Effects of Exercise on Hyperactivity/Impulsivity and Inhibitory Control at Behavioral and Electrophysiological Levels in ADHD: A Systematic Review and Meta-Analysis"。日本語にすると「ADHDにおける多動/衝動性および抑制制御に対する運動の効果——行動・電気生理学的レベルでのシステマティックレビュー/メタ分析」です。掲載は Journal of Attention Disorders(2025年)。筆頭著者は Zhang Zeping ら、上海体育大学とニューカッスル大学のグループ。デザインはシステマティックレビュー/メタ分析で、36研究・38比較(単回だけの急性介入10件と、数週間以上続けた慢性介入26件)を統合しています[1]。

ここで一つ、読み方のコツを。「システマティックレビュー/メタ分析」と聞くと身構えるかもしれませんが、要は「同じテーマのたくさんの研究を、決まった手順で集めて一つに束ねた研究」のことです。1本の研究は、参加人数が少なかったり、たまたまその集団で良い結果が出ただけだったりします。それを36本ぶん重ね合わせると、個々のブレが平均化され、「全体としてどうなのか」が見えやすくなる。だからメタ分析は、証拠の強さでいえば上位に置かれます。今回の話が「ある一つの研究では〜」より一段重い理由は、ここにあります。

この研究は結局、何に「効いた」のか

結論から言うと、運動が効いた領域と、効かなかった領域が、はっきり分かれました。

運動がADHDに与える効果 — 3つのアウトカム

研究チームは、3つのものさしで運動の効果を測りました[1]。

1つ目は、抑制制御(inhibitory control)。「やめる」「待つ」「我慢する」といった、衝動にブレーキをかける脳の働きです。Go/No-Go課題やストループ課題という検査で測ります。ストループ課題というのは、たとえば赤いインクで書かれた「青」という文字を見せられて、インクの色(赤)を答える、という直感に逆らう作業のこと。ここで運動は、小〜中程度の改善効果を示しました。しかもサブグループ解析では、この効果が小児・青年でとくにはっきり出ていました。

2つ目は、多動/衝動性(hyperactivity/impulsivity)。「じっとしていられない」「順番を待てない」「思いつくと動いてしまう」という、ADHDの中核症状そのものです。CBCL(子どもの行動チェックリスト)などの評価スケールで測ります。ところが運動は、この多動/衝動性に対しては、はっきりした改善を示しませんでした。

3つ目は、脳波の成分(N2・P3)。抑制に関わる脳の電気的な反応(事象関連電位、ERP)を調べたのですが、こちらも有意な変化はありませんでした[1]。

ADHDにおける抑制制御と多動/衝動性の違い

整理すると、運動は「脳の実行機能、とくに抑制制御」は底上げするけれど、「行動として表に出る多動・衝動性」を直接おとなしくさせるわけではない。この線引きが、今回いちばんお伝えしたいところです。「テストで我慢する力が伸びた」ことと、「教室で45分間じっと座っていられるようになった」ことは、実は別の話——そう理解しておくと、次に運動の話を聞いたとき、過剰に期待も落胆もせずに済みます。

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引用エビデンス
1

1. Zhang Z, Bo X, Liu K, et al. Effects of Exercise on Hyperactivity/Impulsivity and Inhibitory Control at Behavioral and Electrophysiological Levels in ADHD: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Atten Disord. 2025;30(5):677-693. https://doi.org/10.1177/10870547251404197

2

2. Pan Q, Zheng S, He P. Beyond binary comparisons: a Bayesian dose-response meta-analysis of exercise on executive function in children and adolescents with ADHD. Pediatr Res. 2025;99(4):1296-1305. https://doi.org/10.1038/s41390-025-04325-1

3

3. Yang Z, Zhao K, Hu Y, et al. Exercise prescription to improve executive functioning in children and adolescents with attention deficit hyperactivity disorder: a network meta-analysis. Front Psychiatry. 2026;17:1716578. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2026.1716578

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