「免疫は強いほどいい」と思っていませんか
新型コロナのパンデミックは、ひとつの不都合な事実を突きつけました。同じウイルスに感染しても、高齢男性の重症化・死亡は高齢女性のおよそ2倍。これは偶然ではなく、インフルエンザでも肺炎でも敗血症でも、感染症では昔から男性のほうが命を落としやすいことが知られていました [1]。
ここまでなら「女性の免疫は強い、よかったね」で終わる話です。ところが逆側に、もうひとつの事実があります。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、橋本病——自己免疫疾患の患者さんのおよそ8割は女性です [2]。免疫が「強すぎて」自分の体を攻撃してしまう病気は、圧倒的に女性に多いのです。
つまり「免疫は強いほどいい」という素朴な思い込みは、半分しか当たっていません。強い免疫は感染症には有利でも、自己免疫という別のリスクと背中合わせ。そしてこの綱引きの様子は、男女で、しかも年齢とともに、まったく違う形で変わっていきます。今日はこの「免疫老化の性差」という、まだ教科書にもあまり載っていない話を、一緒に読み解いていきます。
なぜ女性は感染症に強く、自己免疫には弱いのか
答えの土台は、思春期より前からすでにある2つの生物学的な違い——X染色体と性ホルモンです [3]。
X染色体には、免疫にかかわる遺伝子が集中しています。ウイルスを感知するセンサー(TLR7など)や、免疫の司令塔にかかわる遺伝子群です。女性はこのX染色体を2本持っています。ふだんは片方が休眠していますが、免疫関連の遺伝子には休眠を免れて両方から働くものがある。いわば免疫遺伝子について「二重の保険」を持っているわけです。この手厚さが、感染症への強さと、裏を返せば自己免疫への傾きやすさの両方を生みます。
もうひとつが性ホルモン。免疫細胞にはエストロゲンとテストステロン、両方の受け皿があり、ホルモンの量が免疫の強さを日々調整しています [3]。ざっくり言うと、エストロゲンは免疫を「増強」する方向、テストステロンは「抑制」する方向。だから女性はワクチンの効きもよく、抗体もしっかり作れます。
これを見事に示したのが、スタンフォード大学のFurmanらの研究です [4]。インフルエンザワクチンへの反応を調べたところ、テストステロンが高い男性ほど抗体の反応が低い、という関係がはっきり出ました。ここで一歩踏み込んだ「読み方」をひとつ。これは「テストステロンが高い人ほど反応が低かった」という相関であって、全員に必ず当てはまる話ではありません。ただ、脂質の代謝にかかわる遺伝子群が間に噛んでいることまで示されたので、単なる偶然ではなく、ホルモンが代謝を介して免疫を抑えている、という筋書きに説得力があるのです。



