「CRPが、基準値内だけど少し高めですね」。健康診断でそう言われて、けれど「まあ年齢的なものでしょう」と続けられ、なんとなく気にしないことにした——そんな経験はありませんか。
外来でも、この「年のせいですね」は本当によく使われるフレーズです。かく言う私自身、研修医の頃は、少し高いだけのCRPを見て「加齢に伴う変化ですよ」と説明していた時期がありました。悪気はないのです。はっきりした感染も、リウマチのような病気もない。ただ少しだけ高い。それを「年のせい」と言う以外に、当時の私は言葉を持っていませんでした。
でも、2025年に出た大規模な研究を読んで、私はその説明を静かに封印しました。CRPがわずかに高い人は、全死亡リスク——つまりあらゆる原因で亡くなるリスクが、1.54倍。「年のせい」の四文字で片付けていい数字では、なかったのです。
今日は、この「ちょっと高いCRP」の正体である Inflammaging(インフラメイジング)という考え方を、外来では話しきれない部分まで含めて、一緒に読み解いていきます。
「年のせい」の一言が、見過ごしてきたもの
健診の数字が少し高いとき、私たちはよく「様子を見ましょう」で終わらせます。これは悪いことばかりではありません。わずかな異常でいちいち不安を煽らないための、医療なりの優しさでもあります。ただ、その優しさが「炎症」に向けられるとき、少しだけ落とし穴があります。
多くの人にとって炎症とは、喉が腫れる、傷が膿む、熱が出る——そういう「わかりやすく痛い」ものです。ところが、加齢とともに体の中で起きる炎症は、痛くも痒くもありません。感染したわけでも、どこかを怪我したわけでもないのに、ごく弱い炎症がずっと燻り続ける。この現象に、2000年、イタリアの免疫学者フランチェスキが名前を与えました。Inflammaging。炎症(Inflammation)と老化(Aging)を掛け合わせた造語です [1]。
フランチェスキらの2018年の総説は、この「消えない炎症」を焚きつける火種を、大きく3つに整理しています [1]。一つ目は自己由来(Self)——傷んだミトコンドリアのDNAや酸化したタンパク質といった、いわば体内に溜まっていく「分子のゴミ」。二つ目は非自己(Non-self)——サイトメガロウイルスやEBウイルスのように、一度感染すると体内に潜み続け、免疫を静かに刺激しつづけるウイルスたち。三つ目は準自己(Quasi-self)——腸内細菌のバランスの乱れや、食べすぎそのものが引き起こす「メタフラメーション(代謝の炎症)」。この3つが代わる代わる自然免疫を小突きつづけ、IL-6やTNF-αといった炎症の伝令役(サイトカイン)が慢性的に出つづける。それがInflammagingの実像です。

ここで一つ、覚えておくと便利な読み方を。「基準値内」という言葉は、「病気ではありません」という意味であって、「リスクがゼロです」という意味ではありません。健診の基準値の多くは、「明らかな病気を拾うための線」であって、「ここから下なら安心」という線ではないのです。CRPの「ちょっと高い」は、まさにこの隙間に落ちています。
そもそも「消えない炎症」は、どこで測れるのか
では、この目に見えない炎症を、どうやって捉えればいいのでしょう。研究で最もよく使われるのが、CRP(C反応性タンパク質)とIL-6(インターロイキン6)という2つの指標です。
CRPは肝臓で作られるタンパク質で、体のどこかに炎症があると血液中で増えます。健康診断でおなじみの項目ですね。ただ、一般的な健診で測るCRPは、肺炎やリウマチのような「大きな炎症」を捉えるためのもの。Inflammagingのような「か弱い慢性炎症」を拾うには、少し目盛りの細かい高感度CRP(hs-CRP)のほうが向いています。同じCRPでも、普通のCRPは大雑把な体重計、hs-CRPは0.1グラム単位まで量れる調理用スケール——そんなイメージです。

一方のIL-6は、炎症の伝令役であると同時に、老化した細胞がまき散らす分泌物(SASPと呼ばれます)の主成分でもあります。いわばInflammagingの「首謀者」に近い分子ですが、こちらは研究レベルの指標で、普通の健診では測りません。
気になるのは「日本で測れるのか」でしょう。hs-CRPを健診で測れるかどうかは、施設によります。人間ドックのオプション検査として用意しているところが増えてきましたが、標準項目には入っていないことも多い。自費なら1,000〜3,000円程度が目安です。かかりつけ医に「動脈硬化のリスクも診ておきたいので、hs-CRPを測れますか」と相談すれば、保険の範囲で測れるケースもあります。ひとまず数字を知りたいだけなら、次の健診の申し込みで「オプションにhs-CRPを足せますか」と一言添えるのが、いちばん手軽です。


